都会のゲイの夜

夕暮れが迫る土曜日の夜、健吾はゲイ専用マッチングアプリを眺めていた。
都会に暮らすゲイの夜はだいたいあこんな感じなのかもしれない。

するとそこに、以前一度コンタクトしたことのある一回り年下のゲイ男性から「実際に会ってみない?」というメッセージが届いた。健吾はそれほど気が進まなかったものの、とりあえず会うことにした。

43歳という人生の夕暮れに差し掛かったこの頃、健吾はフローリングに無造作に落ちていたシャツをけだるそうに着て、新宿へと向かった。待ち合わせの相手は30歳の年下ゲイ。約束の時間より10分ほど遅れてやってきた彼は、若者ゲイに多いアンダーカットスタイルで、小柄ながらも愛らしい風貌をしていた。

新宿アルタ前は土曜の夜ということもあり、人でごった返していた。その雑踏の中でも、坊主頭の健吾の姿は目立っていた。

過去にマッチングアプリで出会った男性たちも、同様に健吾の姿をすぐに見つけられたことだろう。

事前にアプリで顔写真は見ていたものの、実物を見ると若干の違いがあり、お互いのファーストインプレッションはさほど良くなかった。目は口ほどにものを言うという格言通り、目には輝きがなかったのだ。

軽く挨拶を交わした後、健吾はスマホで適当な食事の場所を探し始めた。

「何か食べたいものある?」
「なんでもいいですよ」

これまでのフックアップの経験から、健吾にはこうした会話に若干の飽き飽きした感じもあったが、基本的には自分の食べたいものを選ぶようにしていた。そして近場の個室居酒屋を見つけ、そこに直行することにした。セックス目的ではないにしろ、人目を気にせずにいられる密室は、ボディタッチを期待できる空間だからだ。

席に着くと、健吾はすかさず軽口を叩き始めた。相手に興味がないことは確かだが、密室の中での最大の恐怖は無言に襲われることだ。健吾は仕事や出身地などの当たり障りのない話題から口を開かせようとした。偶然にも相手も関西出身であることがわかったが、それだけでは距離を縮めるには至らなかった。結局のところ、性的に興味を持てないと、話が弾まないのだ。

1時間ほど過ぎたところで、相手から腹痛を訴え、早々に切り上げたいと申し出があった。それを聞いて健吾は安堵の思いに駆られた。おそらく相手の方こそ、この場から逃げ出したかったのだろう。確かにアプリ上では多少の興味を持ったものの、実際には別の感触を受けてしまったのかもしれない。

健吾は精一杯気を使いながら、相手を最寄り駅まで送った。そして帰り道、歌舞伎町は週末ゆえに観光客やグループ、カップルでにぎわっていた。その風景を眺めながら、健吾はいつものようにつぶやいた。

「今日も独りだ」

健吾はいつも独りなのだ。大勢の行き交う人々の傍らには、誰かが寄り添っているのに、健吾の傍らには決していない。